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こいいろ

【こいいろ】 準推薦
■制作者/Project TNK(ダウンロード
■容量/76.9MB

高校生の主人公が、気分が沈んだ時に時折足を運ぶ観覧車。そして彼は、今学校の屋上に気になる女の子を呼び出していた。果たして彼の告白の行方はいかに。10分程度で読める短編作品を集めたオムニバス形式の恋愛ストーリー。その構成の妙に、唸らされる事必至。

ここが○

ここが×

■どこにもあってどこにもない恋

最近、フリーの新作ノベルゲームが、少し寂しい気がします。こういうのは時期によって波もありますから、今はたまたまそういう時なのでしょう。そして、そういう時私は定期的に少し古い(時には凄く古い)作品を探しにいきます。しかし、こんな良作を見落としていたとは、私の目は節穴なのかと(笑)。予期しない地味なところで、良作にぶつかる。フリーのノベルゲームはこれだからやめられません。

この作品を一言で言えば、短編オムニバス形式の恋愛ノベルです。全部で7本の短編が入っていまして、順番に読み進める事になります。最初の話の出だしは、少々中二病が入った主人公が(失礼)、学校の屋上で気になる子に告白するという出だし。10分くらいですぐ終って、次の話に移ります。そうすると次はまた全然違う舞台のお話が始まりまして、やはり1話は10分。実に気軽にさくさくと読める短編集です。一番最近では、「ウィンドチャイムにつれられて」みたいな作品と言えば、分かりやすいでしょう。普通の学園ものあり、病院ものあり、夏の田舎ありで、バラエティに富んだ短編群です。

……とか思ってたら、後半で「あれれ?」となり、ラストで「そういう事か!」と膝を打ちました。いや、何と言う構成の妙! こんな構成を考えつくとは、完全に一本取られました。全7本の短編の、どの順番を入れ替えても、こうはいかなかったでしょう。

今までも、ラストで意外な展開とか、伏線が結びつく流れで驚いた作品は数々ありますが、この作品は展開ではなく、構成です。プレイされる方の興味を削いではいけませんから、これ以上は書きませんが、この構成の妙は、プレイして味わってくださいとしか表現できません。

この作品は、非常に珍しいと思いますが、何と登場人物の名前が一切出て来ません。登場人物の数自体は決して少なくない(連作短編集ですから当然ですが)んですが、しかし混乱する事が全くなく、スムーズに読めました。それどころか、登場人物の名前が出て来ないのに、読んでいる時はそれが気にならないのです。これはひとえに高い文章力と描写力のなせる技でしょう。全体の構成といいこの描写力と言い、フリーのノベルゲームで、技術面で驚かされる事は珍しいですね。

ただ、登場人物の名前が出て来ないので、感情移入度という点では少し寂しいところがあるのは否めません。立ち絵も1枚絵もないので、なおの事です。それでも、この作品の登場人物は、プレイして1ヶ月経っても、間違いなくプレイヤーの心に強く印象づけられる事は、私が保証します。

連作短編集として見ると、1つ1つの話は、特に目をひく展開をする訳ではなく、それぞれはわりとありきたりな話です。物語というよりは、どこにでもありそうな恋の一シーンとでもいいましょうか。しかし、そんな「どこにでもありそうな」シーンを並べた結果、「どこにもない恋」を組み上げる事に成功しています。捻った展開がなくても、派手な伏線がなくても、きちんと成り立つ物語。短編作者さんには、参考になる点が非常に多いと思います。

難点と言いますか、演出周りは少々寂しい感じもします。文章だけで十分読ませてくれる作品ではありますが、ここぞというシーンでは、もうすこし「仕掛け」が欲しかった気がしなくもありません。しかし、その地味な作りがあったからこそ、後半からラストで見事に「食らわされた」のも事実ですから、これがこの作品に合った演出の形なのかも知れません。

システムは吉里吉里で、選択肢はなく、プレイ時間は全部読んでも1時間かからないでしょう。最初の1本だけ読んだら、「何だ、特に見る所もない短編だな」と思われるかも知れませんが、そう思ってしまったら、実はそこで既に作者さんの仕掛けた罠にはまっています(笑)。わずか1時間の事ですから、投げ出さずに全部のお話を読んでみてください。絵が全くなくても、これだけのものが作れるんですね。絵だけに目が行っていると、こういう作品は絶対に見落とします。お見事でした。

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